東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2100号 判決
被控訴人金庫の普通預金規定には、現金の払戻に関して被控訴人主張のような特約の定があることが認められ、特別の事情の認められない本件の場合においても、右普通預金契約の原当事者である右喜代次及びその相続人である控訴人においても右特約による意思を有していたものと認めるべく、また、このような特約はもとより有効なものというべきところ、(証拠)を綜合すれば、被控訴人金庫に対する喜代次名義の右普通預金については、従来同人の義理の従兄弟にあたり同人と特別の関係にあつた菊川富亀男が喜代次からその預入及び払戻に関する一切のことについて委任を受け、被控訴人金庫に届出の印章を預金通帳とともに常時預つていて同人に代りその出し入れの衝に当つており、喜代次本人がその衝に当つたことは一度もなかつたのであるが、右菊川は喜代次の死後控訴人の申入により右定期積金返還金が喜代次名義の右普通預金口座へ預替の手続がなされた日の翌日である昭和二十九年七月二日この内より金五十万円の払戻を受けるべく、その所持する喜代次届出の印章を使用して同人名義の預金払戻請求書(乙第八号証)を作成しこれを右預金通帳とともに被控訴人金庫の係員に提出してその払戻を請求し、被控訴人金庫の係員は右菊川が提出した払戻請求書に押捺された喜代次の印影とかねて届出の喜代次の印鑑(乙第七号証)とを照合した上、相違なしと認めて金五十万円の払戻をしたことが認められる。してみれば、被控訴人のした右払戻は控訴人に対しても有効であるものというべく、右認定のような経緯と手続とに徴すれば、控訴人主張のように右払戻金額が多額であること、右菊川が被控訴人金庫の使用人であること等の事情があつたとしても、被控訴人金庫には右払戻につき過失があつたとは認められないから、被控訴人金庫は控訴人に対しその請求の右普通預金のうち金五十万円の限度においてはその返還義務を免れ残額金二万八千七百円についてのみ返還義務を負うにすぎないものというべきである。
(川喜多 小沢 位野木)